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東京高等裁判所 昭和36年(ラ)562号 決定 1961年10月31日

抗告人 株式会社愛三

訴訟代理人 伊東長一郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は左のとおりである。

債権者株式会社愛三(抗告人)、債務者黒沢鶴三郎間の浦和地方裁判所秩父支部昭和三四年(ヌ)第一号不動産強制競売事件の昭和三五年三月二日午前一〇時の競売期日は、執行吏関根佐市主宰のもとに同支部内不動産競売場において実施された。当日債権者たる抗告人は所定時間前に出頭して競売の始まるのを待つていたところ、同日午前一〇時に競売期日は開始されたが、午前一〇時二五分頃同執行吏は競買人がないものと認めて、不動産競売停止調書に抗告人及び当期日に出頭していた仮差押債権者小菅義市両名の署名押印を求め同期日は終了された。しかるに、同執行吏は、別紙目録記載の不動産について田島一郎を最高価競買人として競売調書を作成処理しているが、これが如何なる策謀に基くものか判らないけれども、同執行吏が競売期日を終了して抗告人並びに小菅義市に署名押印を求めて不動産競売停止調書を作成しながら、一たん終了した競売を続行して田島一郎に競落させたのは、明らかに執行吏が強制執行に際し遵守すべき手続を誤つた違法のものである。そこで、抗告人は、原裁判所に対し「同執行吏が右不動産を田島一郎に競落せしめた強制執行は許さない」旨の裁判を求めたのであるが、却下の決定を受けたので、抗告の申立に及ぶというのである。

よつて、当裁判所はつぎのとおり判断する。

所論は要するに、競売期日に競買人がなく期日は終了されたにかかわらず、執行吏が同期日に最高価競買人があつたものとして処理した手続の違法を理由として、民事訴訟法第五四四条に基き執行方法に関する異議の申立をなして執行吏の右手続の取消を求めるものである。

しかしながら、金銭債権についての不動産に対する強制競売は、当該不動産の換価に至るまでには多数の手続を経て実施されるものであるけれども、換価は、最終的には競落許可ないし不許可決定によりその帰結をみるので、法律の規定も、この段階において、異議事由を法定して競落期日に出頭した利害関係人に対し競落の許可についての異議申立の機会を与え(民事訴訟法第六七一条、第六七二条)、また競落許可ないし不許可決定に対し即時抗告の途を開いている(同法第六八〇条、第六八一条)趣旨よりすれば、換価につき右異議事由を主張するものは、右法律の規定に準拠して不服の事由を開陳すべきものであり、その前段階の個々の手続をとりあげて不服の申立をすることは許されないものと解するのが相当である。

本件不服の事由をみるに、仮に抗告人主張のとおりであるとしても、それは、最高価競買人でないものを最高価競買人として、その氏名並びに価額を呼び上げた違法があり、同法第六六六条第一項に違反し、同法第六七二条第七号の異議事由に該当するわけであるから、抗告人はすべからくその直後開かれた本件競落期日に出頭して競落の許可についての異議を申し立てるか、若しくは競落許可決定に対し即時抗告をすべきものであつて、これ以外に、執行吏の競売期日における手続を単独にとりあげて同法第五四四条に基き異議の申立をすることは許されないものといわねばならない。

なお、本件不動産強制競売事件記録に徴すれば、本件不動産について、昭和三五年三月二日午前一〇時の競売期日後同年三月七日午前一〇時に開かれた競落期日において、利害関係人不出頭のまま競落許可決定が言い渡されたところ、抗告人は、右競落許可決定に対し同年三月一〇日適法な即時抗告の申立をしたが、抗告棄却の決定を受け競落許可決定は確定していることが認められるのである。しかし、抗告人としては、少くも右競落許可決定に対する即時抗告に際して、不服の事由を開陳するとともにその立証を尽すべきものであつたというほかない。

されば、原裁判所が抗告人の申立を却下したのは結局相当であり本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 原増司 裁判官 多田貞治 裁判官 吉井参也)

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